先日、書店の将棋コーナーで立ち読みをしていると、小学校に入ったくらいの男の子が、母親と将棋の本を探しにやってきた。僕が「将棋の本」があると知って、初めて棋書を読んだのが高校1年生だったから、十ちかく彼の方が志が高いことになる。

 さて、聞こえた会話から、彼はどうやら詰将棋の本を探しに来たらしい。漢字はまだおぼつかなく、好きな棋士は加藤一二三九段だそう!(これには驚いた。ちなみに余談だが、私が買った最初の棋書も加藤一二三九段の振り飛車破りの本であった)加藤一二三九段の詰将棋本を一度手に取るも、大人の女性向け入門詰将棋の本だったため、ふりがなが彼には少な過ぎたらしい。仕方なく他を物色する親子。

 唐突に、母君が「ここに3手詰めの本があるよ、しかも200問もあるって」と言ったので、彼女の指す先を見ると、『詰将棋パラダイス 3手詰傑作選』なる文庫が。私は閉口して声をかけるか数瞬考えた。というのも、将棋ファンならご存知の通り、『詰将棋パラダイス』は詰将棋のマニア誌で、問題のレベルもめちゃくちゃ高い。プロの先生が、一月に一冊解くレベルのスーパー難度の雑誌である。これを小学校に入るかどうかくらいの子に与えるのは、ビート板で泳ぎの練習をすべき子がいきなり自衛隊式の荷物を背負っての遠泳をやらされるようなもので、将棋ファンが一人減りかねない、そう考えたのである。

 とっさに、「こちらにもこんな本がありますよ」と浦野八段の『3手詰ハンドブック』を薦めた。この本は級位者から私のような低段者(私は二段である)にとって良書であると私は確信している。スタンダードながら、解いた時に爽快感のある作品集で、実戦応用も非常にし易いのだ。

 私はそのまま売場を離れたが、親子は何を買ったのだろう?

 しかし、あの歳の子が棋書を選びに来るとは驚いた。現代はインターネット将棋があるから、同じ棋力の人と効率よく対局出来る。私のただの推測だが、「詰将棋を見に来た」事から察するに、終盤での競り負けがあって、終盤力を強化したい、おそらくは5級より上の棋力がありそうであった。ちなみに5級だと、私の高校入学時の棋力。ひょっとしてこういう子が成長して全国やプロに行くのかな、などと考えた。